海水温の上昇など海洋環境の変化にさらされている水産業。回遊型魚類を中心に水揚げが不安定化する中、各浜では魚介類を育む藻場の再生、種苗放流など資源の安定・増大への取り組みを続けている。併せて後進地の北海道を含めサーモンを主体に海面・陸上での新たな養殖の挑戦も拡大している。「育てる漁業」の技術・資機材の開発動向などの一端を紹介する。
宮城県女川町の飯子浜でギンザケの海面養殖を手掛ける漁業者、阿部郁也さん(有限会社グルメイト=本社・石巻市=専務、電話0225・22・7270)は活じめにこだわる。祖父の代から40年続く出荷方法を守り継ぐ。「生食用だけでなく加工商材にも最適」と強調。浜の他の生産者と共にグループを作り、水揚げする年間800トンの全てを「みやぎサーモン」として出荷する。封じ込めた鮮度とうま味で浸透を目指す。
岩手県の久慈市漁協(川戸道達三組合長)は20日、久慈湾で養殖したギンザケ「久慈育ち琥珀サーモン」約3.3トンを今季初水揚げした。へい死も少なく、成育は順調。世界的な魚食ブームを背景に、昨季に比べ2割ほど高い価格で取引された。市内にオープンした観光施設のメニューにも採用され、誘客の呼び水に、と地元の期待は膨らむ。7月末までに600トンの水揚げを目指す。
根室市内4漁協と根室市で組織する根室市ベニザケ養殖協議会(会長・大坂鉄夫根室漁協組合長)は、トラウトサーモン(ニジマス)の養殖試験を手掛ける。協議会立ち上げから2023年で5年目を迎え、これまで養殖試験に取り組んだベニザケ以外の魚種も成育できるか検証する。
サケ・マス類の海面養殖が拡大している岩手県で10日、山田町の三陸やまだ漁協(菊地敏克組合長)がトップを切って山田湾で育成したトラウトサーモン(ニジマス)約4トンを初水揚げした。来季からの事業化を見据えた試験2年目。成育は順調で、型も良く最高でキロ1350円の値が付いた。ブランド名が「岩手・三陸・やまだ オランダ島サーモン」に決定。自動給餌などの省力化や効率的な養殖方法の確立を図り、7月中旬までに80トンの出荷を目指す。
2023年度のさけ・ます人工ふ化放流計画は、サケの放流数が道計画で前年度比3090万尾減の8億5625万尾。水産研究・教育機構水産資源研究所の計画分を合わせた総放流数は9億8525万尾で、道が計画策定を始めた01年以降最低。特にえりも以西海区では資金難から3065万尾減となった状況に対し、計画案が諮問・協議された3月24日の道連合海区では委員から道、国の対応を求める意見が相次いだ。
ニチモウ株式会社と九州電力株式会社、西日本プラント工業株式会社、株式会社井戸内サーモンファームが共同出資する「フィッシュファームみらい合同会社」が、九州電力の豊前発電所(福岡県豊前市)敷地内に昨年2月から建設していたサーモン陸上養殖場が完成し、20日に稚魚の池入れを開始した。初出荷は今年7月頃を予定する。
株式会社八戸フーズ(青森県八戸市、関川保幸社長、電話0178・45・7661)はサケ・マス類の加工に力を入れる。マレル社の小骨抜き機(ピンボーンリムーバー)を2月に導入。5月から岩手県大槌町産養殖ギンザケのトリムC出荷を新たに始める計画で、北海道産秋サケなども含めて年間取扱量は前年比10倍の500トンに達する見込みだ。圧倒的な精度と時間効率を誇る同機が事業拡大をサポートする。
東京都・豊洲市場のサクラマス消流は、末端の商戦本番を目前に控え、入荷量の少ない青森県産釣物の卸値が高値に付いている。注文分で仕入れている仲卸は「3キロ台は3千~2500円が6日に5500円」と驚く。一方で北海道産の刺網物や底引物で1キロ前後は値ごろ感があり、取り扱う仲卸業者は「販売は良好だ」と自信を見せる。
岩手県内の秋サケ漁が記録的な不漁に見舞われている中、県水産技術センター(釜石市、神康俊所長)は放流するサケ稚魚の大型化を図る研究を急ピッチで進めている。強力な抗酸化作用を持ち、ストレス軽減の効果があるとされるサケの身の赤い色素「アスタキサンチン」に着目。餌料に添加して投与することで、尾叉長と体重の増加や遊泳力向上といった成果を確認した。給餌飼育期間などの課題を解決し、成魚の回帰率を高めて地元漁業者の所得アップにつなげたい考えだ。